7:20 p.m ~ の貴方へ


「百々果さんのおすすめの本を教えて」


貴方の不意の質問にあのように答えてしまったけれど…


補足しておきたい。


太宰治は、貴方が本当に素直になりたい時に何度もでも立ち返ると良いと想う。


夏目漱石は、貴方が弱気になった時に読めば少し太々しくなれるかも。


芥川龍之介は、貴方の感性が鈍っていると感じた時に読むといいかな…彼の作品を読めば、分かり易く感度が極端に上がる。


谷崎潤一郎は、貴方が私の足許に来る前に読むといいと想うわ…


そして、三島由紀夫。

三島は、美しいと感じたものを「美しい」という言葉を遣わずに表現する言葉を、私に教えてくれた素晴らしい作家です。


美に取り憑かれた文豪。

彼のあまりにも整った文体は、華美…

正に文章だけで美の世界を構築しようとしている。


そして、ひとつアドバイスをするのならば、

読書は、体系的にするべきよ。

そうしないと、記憶の容量が無駄になる。


たとえば三島の『金閣寺』を読んだら、

それに対する注釈や解説をしている本や論文を5~6冊読むといい。


本は、どれだけ速く読んでも〝知識〟しか溜まらない。

これでは、全く意味がないよね。

多角的に一つのものに当たって初めて〝見識〟になる。

これには、貴方が何処で暮らして、何を見たとしても汎用性があるから是非。


加えて貴方は私に「英語を話せるか」と訊ねたよね?


「留学経験があるから多少は…」


「僕も改めて勉強しないとな、と思って」


いや、よくよく考えたんだけれども…

どうせ勉強するのならば、没頭するべきは英語でなくていいと私は思います。


通訳を雇えば一瞬で済むような英語に、過激な量の時間を注ぐ必要性を私は全く感じない。

どうしたって帰国子女の脊髄反射のようなスピーキングやライティングには勝てないし…

ある程度で、構わないのよ。

それより、何を今言うに値するか考える方が、価値がある。


そして最後に貴方の無計画な旅は、無駄ではなかったと想います。


寂しい時は、寂しいで、

ちゃんと人に逢って、甘える…


貴方はそれができるじゃない。


それで、充分よ。


追伸


あれは、私が本当に大好きな作品。


きっと直ぐに役には立たないけれど…

貴方の心を少しだけ豊かにしてくれるかも。


では、またね…

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