貴方は、旅人。

世界中、貴方の庭みたいなものでしょう…

我が国で最も、自由に愛されている男。


6年前…たった一人気儘な海外旅行中。

中東…煌びやかで幻想的な街中で、

私は貴方を偶々見つけ、声を掛けた。


「お一人ですか?」

「うん…あぁ、お隣、どうぞ……」

綺麗なインド刺繍が大胆にあしらわれた大判のストールを路上に広げて魅せ、戸惑いながらも歓迎してくれた。


貴方の話に耳を傾けながら、

恰も世界旅行をしている様な気分に浸った。

私も少しだけ、自分自身の話をしてやった。


「貴女は、女性なのだけれども、戦士の様な…もしかして、ピュセルなのかな…」


そう言って悪戯に微笑み…

貴方は私にこう…問い掛けたのよ。


「貴女が心に抱く剣の名は…?」


……


「私の剣、その名は〝ウルミ〟...…」


「この剣は必ずしも相手を傷つけるばかりではない…時に鞭のように撓やかに舞い、刀を交える者の剣に共鳴する…それは双刃の刄…。」


「扱いを間違えれば、自身の体をも切り裂くことになる……」


あの瞬間の…貴方の瞳の輝きは、

…忘れられないわ。


「長剣…特にあの形状の劔は、その出所を鉄器の普及以前にまで遡り、あれが原型かどうかも判らない。ドラビダの剣……」


「アーリア系の現インドよりも古い歴史をもつ先住民の武器だ。僕はマハーバリ・プラムの石の丘で、野営していた旅芸人の一座の一人が、それを振るのを初めて見たんだよ。」


「先ず何よりも目を引いたのは、その奇怪な形状。一見硬いワイヤーを束ねたようにも見えたけど、そうではない。そしてしなり....。音....。特にあの音は....何だろう…よく実態が掴めない何かの前兆....そうとしか言いようがない....」


「どうして知ってるの…?

一体何処で手に入れたんだ……」


「 貴女との話題は尽きない....面白い人だぁ」


…貴方と過ごした数日間は、

本当に心から、とっても…愉しかった。


別れの時間…


「百々果…僕が君の名を呼んだら、

またこうして手を握って…抱き締めてくれる?」


それは、自由の代償ね……


「我が国の門は、何時も開かれている。」


「主従を結んだ貴方に対して、私から背を向ける事など、有り得えないわ。」


「貴方が『要らない』と言うか、全ての宝物が集まり…その傷が癒え、怪物が永遠の眠りにつくまで…」


「そして言う迄も無く、この呪縛は貴方が何時でも解くことが出来る…。その時、私は最初から存在しなかった様に、姿を消すでしょう…」



永遠のアラビアン・ナイト…



追伸


ところで、貴方の心剣は…?


私は刀を交える者の剣に必ず共鳴する…


美しく激しい火花を散らして、魅せようか。


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